
こんにちは、廣本です🤖。
今回は、先日3月19日に開催された、Google Cloud主催『Agentic AI Summit '26Spring』の参加レポートをご共有します。
Agentic AI Summit '26 Springとは
本イベントは、 単なるチャットボットを超えた、「Agentic AI(自律的型AIエージェント)」がどのように業務プロセスを変革し、どのようなビジネス成果をもたらしたのか、というテーマで開催されました。Agentic AIをメインテーマにすえたイベントで、多数のブレイクアウトセッションが開催され、スポンサーブースにも各社が並んでいました。
動画が公開されているセッションもありますので、気になる方は下記よりご覧ください。
セッションの所感
[基調講演] 「生成」から「実行」へ:Agentic AI が加速させるビジネス変革の最前線と Gemini Enterprise が示す未来
基調講演では、株式会社日立製作所・KDDI株式会社・株式会社サイバーエージェントの事例を中心に、AIエージェントがどのように業務や顧客体験を変革するのかについて語られました。
特に個人的に印象的だったのはGoogle Antigravityのデモです。
Google Antigravityはエージェントファーストの次世代型開発プラットフォーム(IDE)です。「反重力」というネーミングが良いですね。
codelabs.developers.google.com
基調講演では、Webサイト制作を例に、Google Antigravityを用いたデモがおこなわれました。
単にWebサイトのコーディングのみをおこなうのではなく、
- プロジェクト仕様書を元にした実装計画の立案
- コーディング
- テストの実施
- Cloud Runへのデプロイ(公開)
という手順がステップ・バイ・ステップで実施されました。
一部のタスクを代替するのではなく、Webサイト制作における一連の流れを複数のAIエージェントで分担して実行する様子が印象的でした。従来の生成AIは「コーディングする人間のサポート」という位置づけでしたが、今回のAIエージェントは「Webサイト制作の開発者」という位置づけと言って良いでしょう。開発プロジェクトに携わる一員として、AIエージェントがチームに加わるというのが当たり前になっていくのかもしれませんね。
エージェントを「分析」する時代へ。Gemini Enterprise と BigQuery で実現するエージェントエコシステムとデータエージェント最前線
AIエージェントの本格導入や顧客提供が始まった現在、乱立するAIエージェントを統制しながら、本当に価値のあるAIエージェントを持続的に成長させられるかが重要になります。
このセッションでは、Google Cloudのさまざまな機能に触れながら、AIエージェントの分析方法について紹介されました。
具体例として、BigQuery × ADK(Agent Development Kit) × Gemini Enterprise のアーキテクチャが共有されました。
Gemini Enterpriseのエージェントの実行ログをBigQueryへリアルタイムに集約し、その結果をダッシュボードやBigQueryの分析エージェントで分析する、という方法です。これは単なるモニタリングにとどまらず、分析結果を元にAIエージェントの改善・進化に活かすことができます。また、行動ログを分析することで、AIエージェントを使うユーザーのインサイトの発見にもつながります。

AgentOps(AIエージェントの運用)方法としては、具体的に下記が挙げられていました。
- エージェント監視:健全性と利用状況の把握
- 利用トレンドとアクティブユーザー推移
- パフォーマンスとシステムエラーの検知
- コスト(トークン)の可視化
- エージェント評価:品質とユーザー体験の測定
- タスク達成率と離脱ポイント
- ユーザー満足度(CSAT)の要因分析
- フォールバック(回答不能率)
- エージェント改善:次の開発アクションの決定
- ナレッジギャップ(未知の質問)の発見
- プロンプトやツール呼び出しの最適化
- 未知のユースケース・インテントの発見
AIエージェントの浸透にともない、これからはガバナンスの問題が顕在化していくことが予想されます。構築だけでなく、監視や改善の仕組みも整えていくことが重要だと感じたセッションでした。
AI クローンで変わるマーケティング検証──事前シミュレーションと未踏層への挑戦
このセッションでは、合同会社デロイト トーマツのAI Garden labの取り組みが紹介されました。
AI Garden labは、AIで多様な個性や深層心理を高精度で再現し、実在する人物のクローンのようなものをつくる取り組みです。
従来のマーケティング調査では、特定のテーマに対する考え方を深く知る手段としてデプスインタビューを実施することが一般的です。しかし、デプスインタビューは時間がかかる上、さまざまな制約がありました。
デプスインタビューに対して、人間クローンを使用するメリットとして、以下のような点が挙げられていました。
- いつでも・どこでも・何度でも聞くことが可能。
- 言語化の壁を超えることができる。
- 人に対するインタビューの場合、その人がうまく気持ちを言語化できない場合がある。
- また、その人自身が気づいていないインサイトがある場合もある。
- 持病やお金のことなど、人に聞きにくい話も聞くことができる。
- 記憶をリセットさせることができる。
- 人間だと忖度して答えてしまう場合もあり、質問をする順番のバイアスがかかってしまう可能性もある。
この人間クローンの作成においては、従来のマーケティングでよく使われるペルソナよりも、さらにリアルな「ひとりの人」を再現することを重視しているとのことでした。
- 情報抽出
- 実在する本人に対して、約2時間で約200問の質問を対面でおこない、その人の考え方や人間性に関わる情報を引き出す。
- 例:人生のストーリー、仕事、日常生活、人間関係、経済状況、健康、住まい環境、政治、感情状態、趣味、情報源、購買行動など
- 情報拡張
- 点のデータを線に落とし込む。「この質問にこういう回答をしている」のであれば「こういう人である」とメタ認知的に解釈をおこなう。
- 「心理学専門者」と「マーケティングストラテジスト」を再現したエキスパートペルソナにより、情報を解釈し、深い理解につなげる。
- 精度評価
- AIクローン・属性情報LLM・簡易LLMそれぞれに対して同じ質問をし、どの回答が最も自分に近いと感じるか、本人に評価してもらう。
- 本人がジャッジする自己像と、周囲の人がジャッジする像のギャップが生じることも。(本人は似ていないと感じても、その人をよく知る周囲の人は似ていると感じるなど)
情報抽出だけではなく、そこからメタ認知的にその人を深く理解しようとする取り組みや、複数のAIからの出力結果を比較する精度評価の取り組みなど、興味深いセッションでした。
私も、会社の同僚のプロフィールや価値観をシステムプロンプトに設定し、本人を模したAIチャットボットをつくったことがありますが、ここまで精度を意識した取り組みではなかったため、非常に参考になりました。社内コミュニケーションや人材育成にも使えそうですね。
カスタムエージェント開発の最前線:エコシステムの進化と堅牢な基盤構築と運用の勘所
このセッションでは、前半は ADK(Agent Development Kit)、MCP(Model Context Protocol)、A2A(Agent2Agent)等の AI エージェント開発エコシステムの最新動向から、Agent Engine の新機能の解説がおこなわれました。後半では Vertex AI Agent Builder を用いた「本番レベルのエージェント実行基盤」の構築手法や、可観測性、エージェントの評価による継続的な改善方法 (AgentOps) について紹介されました。
私がこのセッションで特に印象に残ったのはAgentOps(AIエージェントの運用)、特にAIエージェントの評価方法についてです。
従来のルールベースのソフトウェアは、決定論的に、入力に対して結果が固定されて出力されるものでした。一方で、AIエージェントは、確率論的に、入力に対する結果が変動して出力されます。そのため、従来のソフトウェアよりも出力結果をよりしっかりと評価することが求められます。
エージェントの評価方法の観点としては、下記が挙げらていました。
- ベースラインの評価:評価フレームワークによる自動評価と、人間による手動評価が必要
- 最終応答
- 振る舞い
- 有効性
- 安全性
- ハルシネーション
- 有用性の評価:「有用性」の判断基準や定義を決めるところから必要なため、個別に設計が必要
現在、AIエージェントの構築をおこなう環境やツールも増えてきており、以前より構築のハードルはかなり下がってきたといえます。一方で、構築したAIエージェントをどう評価し、どう改善して運用するのかにも目を向ける必要があることを改めて感じました。AIエージェントを構築して終わり、ではなく、業務に根付かせるためには、AgentOpsの考え方が重要になります。こうした評価方法やルール作りもしっかりと準備していきたいですね。
まとめ
私の部署は「顧客課題を解決するAIエージェントの構築」がミッションのひとつになっているのですが、今回のイベントに参加する中でさまざまな機能や事例を聴講し、多くのヒントを得ることができました。AIエージェントは一部のタスク効率化にとどまらず、業務のあり方自体を大きく変えるインパクトがあるということを改めて感じました。顧客が抱える表面的な課題だけではなく、その大元となる業務フローやKPIをきちんと理解することが重要ですね。
また、顧客課題を解決するAIエージェントを構築するためには、自社でAIエージェントを活用することが重要であるということも感じました。基調講演で株式会社日立製作所の原田 宏美 氏から「Customer Zero」という言葉がありました。「Customer Zero(カスタマー・ゼロ)」とは、企業が開発した製品やサービスを顧客へ提供する前に、まず自社を「0番目の顧客」として導入・運用する戦略のことです。まずは自社でその製品やサービスの価値を体験し、その経験を踏まえて、自信を持って顧客へ提供するという考え方は、特にその価値を定量的に測るのが難しいAIエージェントの領域においては重要になると思われます。同じく基調講演にて、KDDI株式会社の藤井 彰人 氏からは自社で開催したAIハッカソンの事例のお話がありましたし、株式会社サイバーエージェントの簑田 咲 氏からは自社のクリエイティブ作成業務を変革するAIクリエイティブBPO事業のお話がありました。いずれの企業も顧客だけでなく、自社の業務や体制にも目を向け、業務や顧客体験を変革しようという意思が感じられました。
かつてないほどのスピードで変化するAIの波についていくためには、最新の機能や動向に常に気を配り、できるだけ早く、検証→自社活用→顧客提供のサイクルを回すことが重要になるでしょう。そして、このサイクルの中にすらAIエージェントを組み込み、人間だけでは実行できないスピード感を実現することも必要かもしれません。
AIエージェントの登場により、今まで実現できないとあきらめていたことが可能になり、人間が担うべき役割や責任も変わっていきます。こうした話を聞くと、「はたして自分はついていけるのだろうか」「自分の領域がAIエージェントに置き換わってしまうのではないか」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私はこうした変化を楽しむことが最も大切だと思っています。AIエージェントと協働することで、今まで培ってきた経験やスキルが無駄になるわけではなく、むしろ経験やスキルを活かせる可能性が大きく広がるのではないでしょうか。私は趣味でよくダッシュボードを作成していますが、画像生成やデータ準備等の一部の作業をAIエージェントに任せることで、ダッシュボード表現の自由度が上がり、作成時間も大幅に効率化することができました。結果として、自分のアイデア表現の可能性を大きく広げることができ、以前よりも楽しくダッシュボードを作成することができています。
みなさんも「自分の可能性を広げられるかもしれない」というワクワク感を持って、AIエージェントに触れてみてはいかがでしょうか。