
こんにちは、廣本です🤖。
今回は、社内のAI活用推進の取り組みでおこなった、AI活用ワークショップについて紹介します。
AIエージェント活用における課題
近年、AI技術の急速な発展により、業務効率化の可能性は大きく広がっています。特にAIエージェントは、単なる対話型AIとは異なり、「自ら考え、判断し、行動する」能力を持つシステムとして注目されています。
一方で、AIエージェントを業務で取り入れることは、一筋縄ではいかないことが多いのというのも事実です。業務のあり方を根本的に変えるAIエージェントを取り入れるためには、既存の業務を見直し、業務フローを改めて設計し直す必要があります。一見、「便利になるのだから、みんな前向きに取り組んでくれるだろう」と考えがちですが、大きな変化には、大きなコスト(お金だけでなく、時間的コストや心理的ハードル等)が発生します。AIエージェントを本当の意味で業務に取り入れ、AIエージェントと一緒に働くことが「当たり前」の文化をつくるためには、社員ひとりひとりの意識を変えることが大切です。
ワークショップの実施背景と目的
当社では、全社的なAI基盤の整備が進み、ここ1~2年で多岐にわたるユースケースが生まれています。
私の所属する本部でもAIを業務に取り入れることが着実に浸透し、個人の作業やアイデアの壁打ちにAIを使うことが「当たり前」になってきました。当初は「AIをどう使えば良いのかわからない」「今の業務にAIって必要?」といった疑問の声もありましたが、地道な推進活動が実を結び始めたと感じています(この話はまたどこかで記事にしたいと思います)。
このように個人でのAI活用が定着する一方で、次第に「組織としてのAI活用」の必要性が高まってきました。その背景には、個人でのAI活用が進むにつれ生じた、使い方における個人差があります。
例えば、「AIを活用した提案資料の作成業務」を例にとると、以下のような状況がみられました。
- Aさんの場合: 関連情報の収集や要約にAIを使用。以降の資料の作成自身でおこなう。
- Bさんの場合: 箇条書きのアイデアを資料用の文章に整形するためにAIを使用。関連情報の調査は自身でおこなう。
- Cさんの場合: 作成した資料の壁打ちやフィードバックを得るのにAIを使用。資料を作成工程は自身でおこなう。
一見すると、Aさん、Bさん、Cさんそれぞれ個人の業務にAIを活用し、効率化を図っているように見えます。しかし、組織全体で見た場合、どうでしょうか?
同じ「提案資料の作成」という業務に対して、Aさんは情報収集、Bさんは文章整形、Cさんはレビュー、とAI活用が個々の工程に留まっています。これでは、組織として統一された効率化を図ることは困難です。本当の意味でのAI活用を実現するためには、個人の取り組みを組織全体の業務フローに統合し、チーム一丸となって同じ目標に向かって進む必要があります。
そこで、私の所属する本部では「組織で共通化して活用可能なAIアプリケーションの開発」を目指し、AI活用ワークショップを開催することになりました。
事前準備
まずはワークショップの事前準備として、下記の取り組みを実施しました。
- マネージャーによる組織課題の洗い出しと優先順位付け
- 各チームからAI開発担当者を選出
- マネージャーとAI開発担当間での認識すり合わせ
1. マネージャーによる組織課題の洗い出しと優先順位付け
私の所属する本部は大きく、プリセールスチーム、コンサルチーム、開発チームに分かれるのですが、まずはそれぞれのチームのマネージャーに、抱えている組織課題の洗い出しと、解決の優先順位付けをおこなってもらいました。
現場の担当者ではなくマネージャーに依頼した意図は、2つあります。
1つ目は、「影響力が大きい組織課題の見極め」です。現場の担当者では、どうしても個々の細かい作業レベルの効率化に目が向いてしまい、組織視点で考えることが難しくなりがちです。そのため、組織を広い視点で見ているマネージャーが認識している課題をまずは言語化してもらい、インパクトの大きい本質的な課題の発見を目指しました。
2つ目は、「マネージャーの自分事化」です。AI活用に限らず、新しい文化を組織に根付かせるためには、ボトムアップだけでなくトップダウンで浸透させることが重要です。意思決定を行うマネージャー自身が変化の必要性を感じていなかったり、他人事のスタンスを取っていたりすると、現場のモチベーションも上がらず、行き詰まってしまいます。まずは、マネージャー自身がおこなうべきタスクとして考えてもらい、AI推進に対するマイボール感と責任感を持ってもらうようにしました。
課題洗い出しの例

2. 各チームからAI開発担当者を選出
課題の洗い出しと優先順位付けの後におこなったのが、各チームからのAI開発担当者の選出です。当社では全社的にAIアプリケーション開発プラットフォーム「Dify」が導入されており、社員は自由にAIアプリケーションを開発できるようになっています。AI開発担当者はこのDifyの開発を含め、AIを活用した新しい業務フローの設計を担当します。
第三者ではなく各チームのメンバー自身が開発を担当することで、AIアプリケーションへの責任感が生まれるだけでなく、組織課題を自分事として捉えることができます。
また、AI開発担当者の決定に関しては、挙手制ではなく、下記の判断軸をもうけてマネージャーに選出してもらいました。
- 誰かに教えてもらわずとも、楽しみながら自学して自走できる人
- 目の前の業務だけでなく、組織課題に意識を向け、視野を広げてほしいリーダー層
厳しいようですが、一番初めの取り組みでは、「やりたい人」ではなく「やりきれる人」に任せ、きちんと成功事例をつくることを重視しました。
3. マネージャーとAI開発担当間での認識すり合わせ
事前準備の最後のステップとして、マネージャーとAI開発担当者間での認識すり合わせをおこないました。前述の通り、マネージャーは広い視点で課題を捉えていますが、現場は作業レベルの課題に目が向きがちです。事前にすり合わせをすることで、現場はマネージャーの意図を理解することができます。また、マネージャーも現場の意見を聞くことで、現場の困り事の解像度が上がり、具体的な打ち手をイメージしやすくなります。
この事前のすり合わせを省略してしまうと、ワークショップ当日に認識のすり合わせに時間が取られてしまい、本質的に考えるべきことに時間を割けなくなってしまいますので、重要なステップです。
ワークショップの実施
事前準備を踏まえ、下記の要領で「組織で共通化して活用できるAIアプリケーションの開発」に向けたワークショップを開催しました。
実施概要
- 実施時間:90分
- 開催場所:広い会議室(全員オフラインで参加)
- 参加者:各チームのマネージャーとAI開発担当者全員
- ワークショップのゴール:どの業務タスクをAIアプリケーション化するかの見極め
アジェンダ
- アイスブレイク
- AIエージェントの概念(座学)
- 各チームに分かれてワークを実施
- 業務課題を改めて各チームで確認する
- 課題に紐づく業務の理想的なフローと付随するタスク、をできるだけ細かく洗い出し、付箋に書き出す
- 洗い出したタスクを、人間がおこなうべきタスクとAIで代替できるタスク、に分類する
- 各チームで整理した内容を発表
分類例

ワークショップのポイントは2つあります。
1つ目は、「AIの活用を意識せず、理想的な業務フローから考えること」です。最初からAIありきで考えると、AIが得意なタスクの洗い出しに終始し、本質的な課題から離れてしまう可能性があります。まずは現状の課題を解決するための理想的な業務フローを考え、どんな業務フローをつくるべきかをきちんと定義することから始めました。
2つ目は、「すべてのタスクをAIアプリケーション化しようと考えないこと」です。理屈上はほとんどのタスクをAIで代替できるかもしれませんが、現実的には難しい場合もあります。Difyの機能を超えた高度な開発が必要なタスクもあれば、最終的な意思決定や細かい調整など、人間の責任範囲としておこなうべきタスクもあります。無理にAIに寄せるのではなく、『AIがおこなうべきこと』と『人間がおこなうべきこと』を客観的な視点で整理することで、実現可能なネクストアクションにつなげることができます。
この結果、各チームは理想的な業務フローと、具体的にどのタスクをAIアプリケーション化すべきかについて共通認識を持つことができました。
ワークショップ後の開発サポート
ワークショップ開催後には、開発の進捗確認と技術サポートをおこなう定例会を実施しました。
ワークショップの開催目的は、タスクの整理ではなく、AIアプリケーションを実装し、そのAIアプリケーションを業務フローの中で使うことが「当たり前」の文化をつくることです。各チームのAI開発担当者任せにするのではなく、組織としてAI活用を定着させるため、定期的な進捗確認とサポート体制を整えることが重要です。定例会では、開発における技術的な課題の解決だけでなく、業務への実装状況や活用推進についても議論し、各チームの成功事例を共有することで、組織全体のAI活用レベルを底上げすることを意識しました。
ワークショップ開催の2ヵ月後には、各チームのAI開発担当者からマネージャー向けに、開発したAIアプリケーションの成果報告をする場をもうけました。成果報告の場をもうけることで期限が生まれ、業務の優先順位を下げることなく継続的に開発を推進することができました。
結果として、各チームで様々なAIアプリケーションをつくり切ることができました。今後はこのAIアプリケーションを実際の業務でチームメンバー全員が使用し、業務フローの中で定着するよう推進していく予定です。
まとめ
今回は社内で実施したAI活用ワークショップの取り組みについてまとめました。
AIの技術や機能がどれだけ進歩しても、それを使う人間の意識が変わらなければ、本当の意味でのAI活用にはつながらないことを改めて感じました。
プロンプトだけでは動かない人間の意識をどう変えるかが、推進者の腕の見せどころですね。